マートン『社会理論と社会構造』

・参考文献

R.K.マートン(森東吾・他、共訳)『社会理論と社会構造』、みすず書房、1973年

 

<要約>第四章「社会構造とアノミー

これまで、心理学や社会学においては、人間の、生物学的に根ざしている強い衝動によって社会統制が破られると考える傾向にあった。しかし、最近の社会科学の発達において、生物学的衝動の役割がどのようなものであれ、社会の規範から逸脱する行動の頻度とその方法が社会構造の相違によって異なることが指摘された。

社会の成員は一般に認められている正当な文化的目標(経済的・金銭的成功、地位・名声の獲得など)を達成するために、暴力、詐欺、権力の不適切な行使などを除く、制度上許容された合法的な手段を用いる。しかし文化的目標を達成するためには競争に参与し競争相手に勝たなければならない。そうすると唯一の重要な問題は、制度上許容されているか、正当であるか否かを問わず、競争に勝って文化的目標を達成するにはどのような手段を用いれば最も効果的であるかということになる。競争に敗北し、文化的目標を達成できず、満足を得られないでいる者は、社会の規範や規則を変更しようと試み、またはそれを逸脱するようになる。その社会は不安定となり、デュルケームのいうアノミー(無規制状態)が出現する。

このような社会構造において犯罪が発生するのである。アノミーの社会構造に対し、社会の成員個人がどのように適応するのか、適応様式を5つの類型にあてはめることができる。

 

1 同調

文化的目標を制度上許容された合法的手段を用いて達成する。社会が安定しているほど広く普及する。

2 革新

 文化的目標を制度上禁止されている非合法的手段を用いて達成する。例:詐欺師、ギャングなど

3 儀礼主義

 文化的目標を放棄、または低く設定しつつも、制度上許容された合法的手段(制度的規範)を固守する。

4 逃避主義

 文化的目標を放棄し、制度上許容された合法的手段も放棄する。例:麻薬常習者(薬物犯罪)、アルコール依存症患者、精神異常者、浮浪者など

5 反抗

 文化的目標を全く新しいものに変える。例:革命家、活動家、反逆者、テロリスト(政治犯罪)など