ブルガーコフ『悪魔物語・運命の卵』(岩波文庫)私感 ※未完

◎悪魔物語

90ページくらいの作品ですぐ読めた。

ゴーゴリの作品に似ている。ゴーゴリ以後の姓に意味を持たせるロシア文学の伝統が受け継がれている(これは訳者の言葉だ)。現実と非現実がごちゃ混ぜになった、SFみたいな作品だ。こういう表現技法を「魔術的(マジック)リアリズム」というらしい。安部公房の作品にもこの表現技法が用いられている。完全に現実離れした空想ではなくて、付かず離れずの距離で、現実の上に構築された物語であり、必ず現実に戻る回廊が設けられている(これは池澤夏樹の言葉だ)。

主人公のコロトコフは勤めていたマッチ工場の書記係を解雇されてしまう。抗議するために上司であるカリソネルのもとへ行くが、彼が二人に分裂してしまう。混乱しつつ二人のカリソネルを追うが、途中で身分証を紛失してしまい、自分がコロトコフであることを証明できなくなってしまう。そして自分自身の存在までも危うくなって……というあらすじだ。

至る所にソ連社会に対する皮肉が込められている。例えば、工場が給料を払えなくなってしまったときに<マッチを現物で支給せよ>との命令が下されるのだが、そのマッチが全然火が着かなかったりする。作品が当時発禁になったのもうなずける。

ソ連時代の風俗も書かれている。例えば「握手は廃止されている!」という台詞があるのだが、これはロシア革命後に握手はブルジョア社会の遺物として廃止されていたと訳注に書かれている。科学鉛筆なるものも登場する。これは先を液体につけると書ける筆記用具らしく、口に含んで唾液をつけることから「先を齧った」という表現も出てくる。一方ソ連は鉛筆を使った。ワクテカである。