就職して3ヵ月が経った

大学を卒業、就職してから3ヵ月が経った。

卸売業の朝は早い。朝は5時に起床して就業場所へ向かう。そこは大きな倉庫である。眠たい目を擦りながら、私は重い商品を棚から降ろして運ぶ。西村賢太の『苦役列車』に、港湾の倉庫で人足として働く主人公が出てくる。フォークリフトとか、プラッターと呼ばれる「回転式のハンドルをやたらにグルグル廻さないとビクとも首を振らぬ」車両が行き交う光景は小説のそれと同じだった。そのあとは届け先ごとに商品を梱包しトラックに積み込む。似たような商品が多い。間違いがあってはならないが、しかし慎重にやり過ぎると時間がかかり過ぎる。時間指定の配達先には間に合わなくなってしまう。

やっとの思いで積み込んだのちには、2トントラックを運転して配達する。私は免許を取って以来一度も車の運転などしたことが無く、最初は運転の練習からのスタートであった。初めは私が助手席に配送助手として同乗し、今では先輩社員が助手席に乗り、私が運転している。もう何度か危ない目にあったし、ガードレールにぶつけたこともある。誰もがこうして失敗し、そこから学んで仕事を覚えていくらしい。ちなみに配達中に商品を落として割ったりした場合はどんな高額商品でも自腹買取である。

配達は肉体労働である。狭い場所や滑りやすい場所でも重たい荷物を運ばなければならない。暑い日も雨の日も関係ない。きつい、汚い、危険のまさに3K労働である。

疲れ果てて家に帰り着くのは20時頃か。枕元に積んである本を読む元気もない。もっとも時間が有り余っていた学生の頃もそんなに読んではいなかったが。

休日は日曜と、週のうちの一日がシフト制で割り当てられる。

給与についてだが、ボーナスは数千円である。中小企業の現実を見よ。だが、残業代のおかげで手取りは20万円を超える。私が一人で配送に出られるようになると、手当てがついてさらに給料が増えるらしい。しかし、先輩社員の話によると昇給はごくわずかで、伸びは期待できそうにない。

私は新卒で入った。入社する時にも人事から聞かされていたのだが、新卒で入って配達をやっていた営業の先輩によると大卒者は早くて1年から3年で、営業などのホワイトカラー職に配属されるそうだ。最初配達をさせるのは、商品や顧客などの業界知識を身に着けさせるためとか、現場を知るためとか、根性を試すためとか言われている。しかし、根性でどうにかなる問題だけではない。同期の一人は腰を痛めてしまい戦線離脱気味で、「あいつ早く辞めねえかな」などと言われている。独り立ちするとそう簡単には休めないらしい。

私の話はこれで終わりだ。