就活弱者の手記 ~合説の収穫と『若者応援企業』について~

 前回の記事で書いた合説に参加した後、説明を聞きパンフを貰った企業を会社四季報や転職会議、Vorkers等で調べてみることにした。その結果は全く醜悪であった。例えば、ある建設会社(彼らはそう言っていた)の説明では、「私たちは〇〇ヒルズや〇〇ビルの建設に携わりました。この仕事の醍醐味はなんといっても自分の子どもに『あの建物はお父さんが作ったんだぞ』と自慢できるところです。仕事の成果が残り続けて人々に使ってもらえるのはこの上無い喜びで……」などと言っていたので、素晴らしいなあと思ったりもした。しかしこの会社の従業員は確かに正社員なのだが、実際には様々な工事現場に派遣されて作業に従事する。この会社の実質は労働者派遣会社であった。しかも選考方法が人事や他の応募者の前で自己PRを行い、それだけで内定を出すという。さもありなん。

 ある保険代理店は、保険代理店といえば聞こえはいいが、実際の業務内容はコールセンターに配属され一日中ひたすら個人宅に電話をかけて生命保険や損害保険販売のアポを取るというものだった。高齢者を中心に電話をかけるらしいのだが、一体どこからデータを持ってきているのか? ガチャ切りや電話口で罵倒されたりするようだが、当たり前である。どこで調べたのか、いきなり電話をかけてきて保険に入りませんかなどと言われたら誰だって頭に来る。高齢者をターゲットにしているのは売りつけやすいからだろう。このテレマーケティング(というらしい)の保険代理店は2社くらい来ていた。一つはネットで調べればすぐに出てくるくらい有名なブラック企業で、離職率はとても高い。福利を充実させ正社員の比率を増やして従業員の流失に歯止めをかけたいそうだ。もう一つはベンチャー企業らしいがここの人事がやたら馴れ馴れしく、「どうせやりたいことなんかないっしょ?」「最近は草食系男子が多くて、気付いたら女子ばかり採用してる」などと言っていた。リクナビでこの会社の採用ページを見ると、先輩社員の声が掲載されているのだが、皆カルトに洗脳されたみたいな表情と目つきで戦慄した。

 

 さて、今日の題名にもある『若者応援企業』についてである。この説明会に来ていた企業が「厚生労働省から『若者応援企業』に認定された」ということをやたらアピールしてきた。採用案内のパンフレットにもそのことが書いてあったので一体何だと思って調べた。

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厚生労働省 「若者応援企業」宣言事業 

http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jakunen/wakamono/wakamonoouen.html

次の[1]から[7]の基準(宣言基準)をすべて満たす中小・中堅企業であれば、「若者応援企業」を宣言することができます。

[1] 学卒求人など、若者対象のいわゆる「正社員求人」をハローワークに提出すること
[2] 「若者応援企業宣言」の事業目的に賛同していること
[3] 以下の就職関連情報を開示していること
・社内教育、キャリアアップ制度等
・過去3年度分の新卒者の採用実績及び定着状況
・過去3年度分の新卒者以外の正規雇用労働者(35歳未満)の採用実績と定着状況
・前年度の有給休暇および育児休業の実績
・前年度の所定外労働時間(月平均)の実績 等
[4] 労働関係法令違反を行っていないこと
[5] 事業主都合による解雇または退職勧奨を行っていないこと
[6] 新規学卒者の採用内定取消を行っていないこと
[7] 都道府県労働局・ハローワークで扱っている助成金の不支給措置を受けていないこと

「若者応援企業」を宣言するためには、ハローワークに若者(35歳未満)のための求人の提出に加え、宣言書の提出が必要となります。

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どうやらこの事業行政行為厚生労働省が各企業を個別に審査して認可を与えるという性質の物ではなく、要件を満たしてハロワに求人と宣誓書を出しさえすれば『若者応援企業』であることを宣言してもよい、という物のようだ。

 ちなみ前述の企業の採用案内には大きく「若者応援企業認定」の文字と「認められました。」という文言が記されているが、これは企業が勝手に宣言しているだけのことであって、厚生省から直々に認められたわけではない。本当に要件を満たしているかどうかは誰にもわからないのである。宣誓書を出しているとはいえ、そんなものは形式に過ぎず、形骸化するに決まっている。宣誓といってもいくらでも嘘はつけるのであるし、嘘をつくのがブラック企業である。それにたとえ偽りではなかったとしても、例えば、[5] 事業主都合による解雇または退職勧奨を行っていないこと、などというのは、労働者を肉体的精神的に酷使するとか、そうでなくても働きにくい職場であれば、勝手に自主退職していくのだろうから簡単にクリアできてしまうのである。

 そもそも、『若者応援企業』であることをアピールしなければ人が来ない所など、まともではない蓋然性が高いのではないか。と思っていたらこんな記事を見つけた。

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産経ニュース:「若者応援企業」を提訴 実は「ブラック」? 元社員、過重労働で心の病 2014.8.7

http://www.sankei.com/affairs/news/140807/afr1408070029-n1.html

 >労働時間は最長で月270時間に及び、研修とされた入社前約1カ月の労働も賃金は支払われなかった

厚労省の担当者は「登録企業に法令違反があれば、登録の保留や取り消しを検討する」としている。

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「登録の保留や取り消しを検討する」って検討するだけかよ。

 もちろん『若者応援企業』のなかには優良な企業もあるのだろう。しかし、求職者は慎重になるべきである。前述の説明会に来ていた企業は『若者応援企業』を宣言しているが、平均年齢は20代、平均勤続年数は約4年、採用からの一年以内に3割越えが離職している。まあ、公表しているだけましなのか。