NHKアーカイブス 映像ファイル♯088 安部公房

安部「ぼくはね、結局文学作品というのは、ひとつのもの、生きているものというか世界、極端に言えば世界ですよね。小さいなりに生きている世界というものを作って提供する、そういう作業だと思っていますけどね。だからお説教やさ、論ずるということはね、あんまり小説においては必要ないと思いますね。いわゆる人生の教訓を書くなんてことはね、論文とかね、エッセイに任せればいいことで、小説っていうのはそれ以前の、意味にまだ到達しない、ある実態を提供する、そこで読者はそれを体験するというもんじゃないかと思うんだな」

 

――それを割合私なんかは意味を読んでしまう、と、やはり迷路に入り込んでしまう…

 

安部「いやいや、迷路でいいんです。迷路というふうに自分がそれを体験すれば迷路なんです。それでいいんです。終局的に意味に到達するということは、それはちょっと間違いですね。これは日本の国語教育の欠陥だと思う。ぼくのものもなぜか教科書に出てるんですよ。見ていったら『大意を述べよ』と書いてある。あれ、ぼくだって答えられませんね。そんなね、一言で大意が述べられるくらいなら書かないですよ。それこそぼくは最初から大意を書いちゃいます。」

 


安部公房(Abe Kobo) - YouTube