祖父について

訳あって2週間ほど鹿児島に滞在していた。

私は自分の家族や親類についてあまり書きたくない。私以外の者にとって興味も関係もないことである。これはただ私の心情を、感傷的な心情を書きとめた走り書きに過ぎない。

父方の祖父母は他界している。誰も住まなくなった木造家屋は老朽化著しく、取り壊されていた。家に残されていた物は整理したらしい。その中に、太平洋戦争に従軍した地元の元兵士たちが作った軍人会なる組織が出版した『軍魂』という、広辞苑並みの分厚い本があった。ページをめくると軍服を着た昭和天皇の写真や、金紙に菊の御紋がしるされたページの後に、軍人会の元兵士たちの名前と経歴、軍歴が書かれたページが続く。祖父の名前もあって、読んでみると「画家を志して美術学校入学のため上京するも果たせず、折しも大東亜戦争開戦により徴兵さる」云々とあった。

祖父は私が生まれる前に死んだ。祖父と今会って話がしてみたいと思った。私と同じ青年期に東京のどこで何をしていて、自らの人生にいかなる展望を抱いていたのか。どんなものを食べ、どんな女と何を話していたのだろう。それともたった一人孤独に物思いにふけっていたのだろうか。

画家になりたくて東京へ行くなんてことは、あの時代には一大事だったはずだ。

祖父と会って、話がしてみたいと思った。